ご挨拶
第40 回日本社会精神医学会
会長 井上 猛
東京医科大学 精神医学分野 主任教授
このたび第40回日本社会精神医学会を開催させていただくにあたり、ご挨拶申しあげます。
今回のテーマは「精神医学をみなおす “拡がっていく社会精神医学”」といたしました。精神医学は患者個人にとどまらず、家族、社会の文脈の中で考えていく必要があることは自明の事実と思います。多くの精神疾患は遺伝や生来の素因(パーソナリティ特性など)などの個人的な要因だけで発症や経過を説明することはできません。職場の同僚や上司、同級生、友人、家族、パートナーなどとの人間関係や過労、残業は精神疾患に大きな影響を与えます。さらに、生まれ育った環境や境遇、経済的状況、心身の病気も同様に精神疾患に大きな影響を与えます。このように実にたくさんの要因が複雑に相互作用しながら個人に影響して、精神疾患をかたちづくってゆきます。これらの複雑な関係は個人と社会の相互作用として整理するとわかりやすいと思います。
上記のように考えますと、社会精神医学は精神医学の重要な領域であることに気づかされます。精神医療にかかわるものはすべて、意識するしないにかかわらず社会精神医学の観点から患者にかかわっています。あらためて社会精神医学の観点を意識すると、精神医療、精神医学の中に新たな発見があります。昔よりも社会精神医学的考えは精神医学に深く浸透し、精神医学の基礎となっているのではないかと思います。精神医学が病院から社会に進出していったことは理由の1つであります。
2015年には職場のストレスチェック制度が始まり、ハラスメント、残業、過労などの様々な職場の問題が国家的問題としてクローズアップされるようになりました。社会環境がいかに個人に影響を及ぼし、精神疾患発症や自殺につながるのかを、我々専門家は国民に説明し、助言を与える役割をはたさなくてはいけないと思います。そのためには、実証的な調査研究が必要であることはいうまでもありません。
医師、研究者、保健師、看護師、心理職、精神保健福祉士、産業や教育の専門職など様々な領域の会員が参集する本学会において、是非個人と社会の相互作用について多領域から焦点をあてて、“拡がっていく社会精神医学”について議論していただきたいと思います。もちろん本テーマに限らず、多様な観点からのご発表をお待ちしております。本医学会が社会精神医学の観点から精神医学をみなおすきっかけとなることを願っております。
第40回日本社会精神医学会への、皆様の御参加と御発表をお願い申しあげます。本大会で、お会いできますことを心よりお待ち申しあげております。